営業も、生産管理も、調達も、それぞれの持ち場で、まじめに仕事をしている。誰かが手を抜いているわけではありません。それなのに、会社全体で見ると、在庫が余ってしまったり、逆に欠品で売り逃したりする。製造業の現場で、そんな場面に心当たりはないでしょうか。
私はいくつかの製造業の現場で働いてきて、この「一人ひとりはちゃんとやっているのに、全体ではうまくいかない」という状況を、何度か目にしてきました。誰かが悪いわけではないだけに、かえって難しい問題だと感じています。
それぞれの立場の「こうしたい」
少し、それぞれの立場に立って考えてみます。
- 営業は、売る機会を逃したくありません。注文に応えられず欠品するくらいなら、多めに作っておいてほしいと考えます。
- 生産管理は、生産を安定させたいと考えます。需要に合わせて計画を何度も変えると、現場が混乱して、効率も品質も落ちてしまうからです。できれば、急な計画変更は避けたい。
- 調達は、部材の手配を急に増やしたくありません。部材は思うように集まらないこともありますし、無理に増やせば、仕入れ先にも負担をかけてしまいます。
どれも、その立場に立てば自然な考えだと思います。誰かがわがままを言っているわけではありません。それなのに、この三つの「こうしたい」が重なると、うまくかみ合わなくなっていきます。
会社が変わっても、同じことが起きていた
私は以前、化学品をあつかうメーカーで、生産管理として在庫や生産計画に携わっていました。その後に移った先でも、扱う製品は大きく変わったのに、営業・生産管理・調達のあいだに起きるすれ違いは、不思議なくらいよく似ていました。
製品も会社の規模も違うのに、同じことが起きる。だとすると、これは特定の会社や、特定の誰かの問題ではないのかもしれない。そう考えるようになりました。役割を分けて、それぞれが自分の責任を果たそうとするほど、こういうすれ違いはむしろ生まれやすいのだろう、といまは思っています。
在庫が余ることと、欠品。その両方が同時に起きる
もし営業の見込みが「いつも多すぎる」とか「いつも少なすぎる」と決まっていれば、まだ手の打ちようがあります。けれど実際には、見込みはそのときどきでずれます。多めに見たときは在庫が余り、少なめに見たときは欠品して、売る機会を逃す。ずれる向きが一定しないので、「とりあえず多めに作る」「少なめにしておく」のどちらに寄せても、別のところで問題が出てしまいます。
それぞれの部門が自分の考えを通そうとするほど、このずれをどこで吸収するのかが、あいまいになっていきます。結果として、在庫が余ることと、欠品で取りこぼすことが、同じ会社の中で同時に起きる。一つひとつの判断はおかしくないのに、気づくと利益が削られている、ということが起こります。
営業も生産管理も経験して、どちらの気持ちもわかった
私は生産管理として計画を立てる側にいながら、営業として売る側の苦労も、いくらか経験してきました。だからどちらの気持ちも、わからなくはありません。
生産管理の側にいると「もっと早く、正確な見込みがほしい」と思います。けれど営業の側に立てば「お客さんの都合で動くのだから、確約なんてできない」というのも、よくわかります。どちらの言い分にも理がある。そして、こういうときに結論が、声の大きさや立場の上下で決まってしまうことも、正直、少なくないように感じています。
では、どうしているか
これという特効薬を、私が持っているわけではありません。それでも大事だと感じているのは、まず情報を分け合うことと、判断のよりどころを「それぞれの部門の都合」から「会社全体の利益」のほうへ、少しずつ寄せていくことです。
営業の見込み、生産の計画、調達にかかる時間、いまの在庫。これらがバラバラの場所にあるうちは、全体を見渡せません。まずは、同じ数字を関係者がいっしょに見られるようにする。そのうえで、「営業が楽か」「生産が楽か」ではなく、「どう動かせば会社全体として得か」を、共通のものさしにしていく。
私自身も、それぞれの部門が自分の都合で動いていて、全体では利益を取りこぼしている、という状況に立ち会ったことがあります。各部門の事情をつなぎ合わせて、在庫と販売をどう動かせば全体の利益が大きくなるかを考えながら、あいだに立って方針をそろえようとしてきました。うまくいったこともあれば、思うように進まなかったこともあります。
いまも、答えを探している途中です
正直に言うと、これは「正しいよりどころを決めれば終わり」という話ではありません。私自身、いまも答えを探している途中です。需要は動きますし、それぞれの部門の事情も変わっていくので、一度そろえても、またずれていきます。
できるのは、情報を分け合いながら、「会社全体の利益」という見方を少しずつ広げて、すり合わせをくり返して、判断の精度を上げていくことくらいかもしれません。地味な作業ですが、いまのところ、これに代わる近道は見つかっていません。
部門がバラバラに見えるのは、仲が悪いからではなくて、それぞれが自分の責任を、まじめに果たそうとしているからだと思います。だからこそ、責める相手を探すよりも、「会社全体でどうか」という一つの見方で、少しずつつなぎ直していけたらいい。私もまだ模索している一人です。もし近い悩みをお持ちでしたら、同じ目線で、どこで利益がこぼれているのかを一緒に探すところから、お手伝いできればと思っています。