来年度の予算を、誰が作っているでしょうか。経理が全社の数字を組み立てて、現場には決まった数字が下りてくる。そういう形の会社は多いと思います。
私は前職の石油化学メーカーで、担当していた装置の予算を自分で作っていました。その経験から言うと、予算を作る人が現場にいるかどうかで、その後の一年の見え方がかなり変わってくるように思います。
営業の希望は、そのままでは予算にならなかった
予算づくりは、営業から販売計画をもらうところから始まります。来年これだけ売りたい、という数字です。
ただ、それをそのまま生産量に置くことはできませんでした。装置には能力の上限がありますし、私の担当装置の原料は上流の装置から来るので、上流側の予算数量とも見合わせる必要があります。営業の希望に対して、届かない月もあれば、逆に作りすぎになる月もありました。
そこで、月別の数量を動かしたり、年間の総量を調整したりして、営業の案に製造側から回答を返します。それに対して営業がまた返してくる。何往復かして、ようやく生産計画の形になりました。
予算の数字は、誰か一人が決められるものではなかった、ということです。売る側の希望と、作る側の制約を突き合わせた結果として出てくる。その突き合わせを誰がやるのか、という話でもあります。
自分で積み上げた予算だから、差の理由を追えた
生産量が決まったら、そこからコストを積み上げます。
使ったのは、自分でまとめていた実績の原単位です。原料や副資材がどれだけ要るか、電気や蒸気や燃料をどれだけ使うか。それぞれに単価を掛けて金額にする。この作業を自分でやっていました。
自分で計算していると、予実の分析が非常にしやすくなります。どの数字をどう積んだかを覚えているので、実績とずれたときに、どこがずれたのかをすぐ分解できるからです。原料の使用量なのか、単価なのか、そもそもの生産量なのか。
完成した予算を渡されるだけだったら、差が出てもそこまでは追えなかったと思います。合計の金額は分かっても、その中身がどう積まれているかを知らないからです。
予算を作る作業が、コスト構造を覚える訓練になった
もう一つ、後から振り返って大きかったと思うことがあります。
担当替えは定期的にあって、毎年担当する装置が変わることも珍しくありませんでした。連続して運転する装置もあれば、バッチで運転する装置もあります。予算を作るとなると、その装置の構造を把握しないと数字が積めません。
おかげで、装置ごとの違いが分かるようになりました。触媒をいつ更新して、それがいくらかかるのか。燃料費が意外と原価に効いてくること。こうした勘所は、運転を見ているだけでは身につかなかったと思います。予算のために数字を積み上げる作業そのものが、コスト構造を覚える訓練になっていました。
月次の積み重ねが、翌年の予算の精度を作る
予算と実績がずれたとき、そのずれをどう扱うかも大事でした。
その年に特有の事情で起きた一時的なずれなのか、それとも翌年以降も続くずれなのか。ここを見分けて、続くものだけを翌年の予算に反映します。一時的なものまで織り込むと、翌年の予算が現実から離れていきます。
見分けられたのは、毎月の原単位分析を積み重ねたデータがあったからです。単発の月次報告だけでは分かりません。一年分が並んで初めて、これはその年だけの話だ、これは続く変化だ、と判断がつきます。
ここからは、中小企業診断士としての私の見方です
予算は、経理が作る書類だと思われがちです。
けれど実際に数字を動かしているのは現場です。何をどれだけ作るか、材料をどれだけ使うか、どの設備をいつ止めるか。予算の数字は、その積み重ねでできています。作った人と数字を動かす人が別だと、ずれが出たときに理由を説明できる人がいなくなります。
近年、予算を立てて実績と比べ、差の理由を経営の判断につなげる仕事は、FP&A(Financial Planning & Analysis)と呼ばれています。大企業では専任の担当者を置くこともあるようです。中小企業で同じ体制を作るのは難しいと思いますが、専任者がいないことと、現場が予算に関与しないことは、別の話だと考えています。
手間の話もしておきます。私のいた部署では、予算作成の時期に一か月ほど集中して取り組んでいました。私個人としては、上流装置の予算が固まるのを待ってから、担当装置の分を営業との折衝も含めて一週間程度で作っていました。装置産業なので工程は長い方だと思いますが、それでもこの程度です。中小企業で手が出ない規模ではないと思います。
全部をいきなり変える必要はありません
まず試すなら、来年度の予算のうち、自社で一番コストがかかっている部分だけでも、現場の担当者に積み上げてもらう形が良いと考えています。
そして積み上げた人に、毎月の実績と比べてもらう。差が出たら理由を聞く。それを一年続けると、その人は自社のコスト構造をかなり具体的に掴むはずです。私の場合がそうでした。
原価が見えるようになった次に何を見るかについては、前回の記事に書きました。予算を作る作業は、その見る対象を決める作業でもあります。
予算の立て方や予実の見方を一緒に整理するところから、お手伝いできればと思っています(原価・利益の支援メニューはこちら)。
