原価計算の仕組みを入れると、製品ごとの原価が毎月出てくるようになります。ただ、数字が出ることと、どこを直せばいいか分かることは、どうやら別のようです。

原価が思わしくない月に、その理由を説明することはできる。けれど次に何をするかとなると、手が止まる。私が石油化学メーカーで装置の運転を管理していたときも、毎月の原単位はそういう性質の数字でした。

原単位は月に一度、流量と海水温は常に見ていた

以前、石油化学プラントで原単位を管理していた話を書きました(原価の「見える化」は、コスト削減だけが目的ではない)。投入した原料やエネルギーに対して、どれだけの製品が得られたか、という効率の指標です。

ただ、原単位として集計して振り返るのは、月に一度でした。常に目に入れていたのは、別の数字です。

装置の最低流量。製品の価格(副産物の価格も含みます)。海水温度。収率。熱量あたりのコスト。部署として全員が見ていた数字もあれば、自分で「これも見ておいた方がいい」と足した数字もあります。

原単位は、月が終わってから分かる結果です。それに対して流量や収率は、いま装置がどういう状態にあるかを示しています。同じ「見る」でも役割が違っていました。

海水温が、その月の生産能力を決めていた

中でも、海水温度について少し説明させてください。

私が担当していた装置は、熱交換器の冷却に海水を使っていました。海水の温度が上がれば冷却能力が落ちます。冷却能力が落ちれば、装置を通せる量が減ります。海水温が、その時期に作れる量の上限を実質的に決めていた、ということです。

そこで、海水温と熱交換器の冷却能力の相関を取りました。海水温がこれくらいなら冷却能力はこれくらい、だから生産能力はこれくらい、と見通しが立つようにしたわけです。この相関は、生産技術や現場の感覚とも一致していました。現場が体感していたことに、数字の裏づけがついた、という感じです。

要因は、動かせるものと動かせないものに分けて報告していた

月次の報告には、比べる相手がありました。年度の初めに、自分で担当装置の予算を作っていたからです。

営業から販売計画をもらい、それをもとにその年の生産量をいくらに置くかを決めます。そこに原単位を掛けて、原料や副資材がどれだけ必要か、電気や蒸気や燃料をどれだけ要るかを、過去の実績から積み上げる。単価を掛けて金額にしたものが、担当装置の予算です。部署でまとめて、経理に提出していました。

ですから毎月やっていたのは、その予算に対する実績の報告です。差が出れば、理由を説明します。そのときに、要因はコントロールできるものとできないものに区別していました。

海水温は後者です。気象庁の予測は見られますが、工場のあるピンポイントの精度が高いわけではありません。そして仮に正確に分かったとしても、海水の温度を下げる手立てはありません。

ただ、動かせないからといって、何もしないわけではありませんでした。海水温がいつ下がるかは読めないので、原料タンクは多めに溜めるようにしていました。冷却能力が戻って装置を通せるようになったときに、原料がなければ意味がないからです。それから、担当装置の原料は上流の社内装置から来ていたので、上流の装置側で運転を調整して、他の製品に回せるときは回していました。

海水温そのものは動かせないけれど、その前提で動かせるものはある、ということです。原料の持ち方と、上流の運転の振り分けがそれにあたります。区別する意味はここにあると思っています。動かせないものを諦めるためではなく、動かせるものがどれなのかをはっきりさせるためです。

動かせない数字を測り続けたら、動かせる側の投資が決まった

もう一つ、後から効いてきたことがあります。

海水温と冷却能力の相関については、技術部門とも話して、同じ認識を共有していました。この装置の生産能力は冷却側で頭打ちになっている、という認識です。そこに、担当していた製品の需要が強いという条件が重なって、熱交換器の増強につながりました。

海水温は最後まで動かせないままです。動いたのは冷却する側の設備でした。そして設備に手を入れる判断の根拠になったのは、動かせない海水温を測り続けて取った相関のデータです。

動かせない数字を見る意味は、おそらくここにあります。その数字自体を改善するためではなく、動かせる側のどこに手を入れるかを決めるためです。

ここからは、中小企業診断士としての私の見方です

原価は結果の数字です。月が終わって集計して、初めて出てきます。

そして原価が悪かった月には、たいてい説明がつきます。材料が高かった、特急品が多かった、あの設備が止まった。どれも事実だと思います。ただ、そこで説明が終わってしまうと、翌月も同じ説明を繰り返すことになります。

必要なのは、原価を動かしている要因を書き出して、動かせるものと動かせないものに分けることだと考えています。材料の相場や為替は動かせません。段取り替えの回数や、工程の待ち時間や、設備の停止頻度には、手が入る余地があります。分けてみると、打ち手を考える場所はかなり絞られるはずです。

そして動かせない側も、測るのをやめない方がいいと思っています。私の場合、動かせない海水温のデータが、結果として設備投資の根拠になりました。すぐに打ち手がなくても、数字が貯まっていれば、条件が揃ったときに使えます。

こうした、予算を立てて実績と比べ、差の理由を次の判断につなげる仕事は、近年FP&A(Financial Planning & Analysis)と呼ばれています。大企業では専任の担当者を置くこともあるようです。中小企業で同じ体制を作るのは難しいと思いますが、予算と実績を比べて要因を仕分ける作業自体は、規模に関係なく効くはずだと考えています。その予算を誰が作るのがよいかについては、予算は、数字を動かす人が作った方がいいに書きました。

何を見るかは、会社によって違います

正直なところ、「まずこの指標を見ればいい」と一つに決めることは、私にはできません。装置産業と組立加工では、原価を動かしているものがまるで違うからです。

代わりに、選び方をお伝えします。原価が思わしくないときに、社内で誰かが「たぶんここだと思う」と言う場所があるはずです。その勘が指している要因を、まず数字で見えるようにする。私の場合も、海水温と冷却能力の関係は、現場が体感していたことでした。そこに数字の裏づけがついたから、社内で共有できる話になりました。

原価を見えるようにすることと、その手前の要因を分けることは、本来は続きの作業だと考えています。原価が出るようになったのに打ち手が見えない、という段階で止まっている場合は、要因の仕分けがまだ済んでいないのかもしれません。

そのあたりを一緒に整理するところから、お手伝いできればと思っています(原価・利益の支援メニューはこちら)。