「在庫を減らせ」と言われて減らすと、今度は欠品が出る。かといって積み増せば、別のどこかで在庫がだぶつく――。製造業の現場で繰り返されるこの綱引きに、心当たりはないでしょうか。

在庫の問題は「多いか、少ないか」という量の話として語られがちです。ですが私が現場で実感したのは、欠品と過剰は対立するものではなく、同じ会社の中で同時に起こる、ということでした。

東で余り、西で足りない

私はかつて、製造業の生産管理として、ある化学品の在庫を担当していました。その製品は、東日本と西日本にそれぞれ貯蔵タンクがあり、お客様には近いほうのタンクから出荷する――東のお客様には東のタンクから、西のお客様には西のタンクから、というのが基本でした。輸送距離を短くするための、理にかなった仕組みです。

ところが、東西それぞれの需要と、タンクの容量(キャパシティ)には、どうしてもズレが生まれます。片方のタンクは満杯に近づいて受け入れる余地がなくなり、もう片方は底をつきかける。同じ製品が、片方で余り、片方で足りない――そういう状態が起きていました。

それを埋めるために、船でタンクからタンクへ製品を融通します。ですが、そのタイミングや量の采配がうまくないと、輸送のムダが出たり、補充が間に合わなかったりする。私は生産管理として、東西の在庫と、その間を結ぶ輸送のバランスをどう取るか、その調整を担っていました。

なぜ、欠品と過剰は同時に起きるのか

在庫を「全社で何トンあるか」という総量だけで見ていると、この問題は見えません。会社全体で足りていても、それが必要な場所にあるとは限らないからです。在庫は、「どこに、どれだけ置いてあるか」という配分で効いてきます。

そして配分がずれると、負担は二重になります。一方では欠品のリスク、もう一方では過剰在庫。さらに、それを埋め合わせるための横持ち輸送――船でのタンク間輸送のような、拠点から拠点への移し替えのコストまで乗ってきます。配分の失敗は、在庫の問題であると同時に、物流コストの問題でもあるのです。

拠点が一つの会社でも、同じことが起きている

「タンクが東西にあるような会社の話だろう」と思われるかもしれません。ですが診断士として見ていると、これは拠点が一つの会社でも、形を変えて必ず起きていると感じます。

倉庫の棚と棚のあいだ、工程と工程のあいだ、製品の品番ごと――単位が変わるだけで、構造はまったく同じです。ある品番は欠品し、ある品番は何か月も動かない。同じ会社の、同じ倉庫の中で、欠品と過剰が同居している。そして、急ぎの移し替えや積み替えで、見えない手間とコストがかかっています。

さらにやっかいなのは、在庫データそのものが乱れているケースです。たとえば部品の倉庫では、同じ部品なのに登録上の品番がいくつにも分かれていて、ひとつの品が二重・三重に在庫管理されている、ということが起こります。データ上は別々の在庫に見えるため、片方の品番が欠品しているのに、実は別の品番で在庫を持っていた――配分のズレが、品番台帳(マスタ)の段階から生まれているのです。

では、どうするか

まず、データと現物を一致させることから始まります。品番マスタを棚卸しして、同じ品を一つに名寄せする。重複した品番を整理するだけで、二重管理や、帳簿の上だけにある「幽霊在庫」が解消されることは少なくありません。

そのうえで有効なのが、WMS(倉庫管理システム)の活用です。棚や置き場を住所のように管理し、「どの品が、どこに、どれだけあるか」をロケーション単位で正確に押さえる。こうしたロケーション管理を徹底すると、探す手間や二重計上、眠ったままの在庫が見えるようになります。

ただし、システムは入れれば終わり、ではありません。ロケーションのルールが現場で守られ、運用として回り続けて初めて効きます。道具を入れる前に、まず「どこに何があるかを正しく把握する」。その姿勢が先だと、私は考えています。

在庫は「量」ではなく「配分」の問題

在庫は、量の問題に見えて、実のところ配分の問題です。そして配分は、物流コストとも地続きです。感覚で「多い・少ない」を語るのではなく、それぞれの置き場所について「どれだけ持つべきか」を見立て、必要なら早めに動かす。後手に回って慌てて横持ちするほど、コストはかさみます。

もし「うちも、減らせと言われるのに欠品も起きる」という板挟みに心当たりがあれば、一度、在庫を総量ではなく配分で眺めてみてください。私自身、現場でその視点から糸口を見つけてきました。同じ目線で、一緒に見立てるところからお手伝いできればと思っています。