生産計画は、誰が立てていますか。「あのベテランに任せておけば大丈夫」——そう言える人がいるのは、心強いことです。けれど、もしその人が急に休んだら、辞めたら、計画は回り続けるでしょうか。

営業の需要見込みは、よく変わる

私は製造業の生産管理として、生産計画を立てる仕事をしてきました。その中でいつも悩まされたのが、営業から上がってくる需要見込みが、頻繁に変わることでした。

「来月はこれだけ出ます」と言われて材料を手配し、段取りを組む。ところが直前になって「やっぱり半分でいい」「いや、急ぎで倍ほしい」と変わる。そのたびに、生産計画を組み替えることになります。

営業が悪いわけではない

私は営業も経験してきたので、営業の側の事情も分かります。需要見込みが変わるのは、営業がいい加減だからではありません。お客様の都合で、注文は動くものだからです。営業もまた、動く需要に振り回されている側でもあります。

つまり、需要見込みは「変わって当たり前」。問題は、その変動そのものではなく、変動をどう受け止める仕組みになっているか、です。

ベテランは、勘で「補正」している

ここで起きているのが、属人化です。経験のある生産管理担当は、上がってきた数字をそのまま信じません。「この担当の見込みは強気に出がちだ」「この客は、最終的に前倒しになる」——過去の経験から、頭の中で数字を割り引いたり、積み増したりして、補正しているのです。

この補正があるから、現場は大きな欠品や過剰を出さずに済んでいます。けれど、その補正のロジックは、本人の頭の中にしかありません。なぜそう判断したのか、説明されることはほとんどない。これが、生産計画が「その人にしか分からない」状態の正体です。

その人が抜けたとき、何が起きるか

属人化は、その人が優秀である証でもあります。長年かけて、需要の揺れを吸収する勘を磨いてきた。けれど、その知恵が一人の頭の中だけにあると、その人が休めば計画が乱れ、辞めれば引き継げません。

後任は、営業の見込みをそのまま受けて振り回されるか、補正の勘がないまま手探りで判断することになります。優秀な個人に支えられているほど、その人が抜けたときのリスクは大きくなります。

仕組みに変える——勘を、数字に変えていく

ではどうするか。診断士として私が考えるのは、いきなりシステムを入れることではありません。まず、その人の頭の中にある「補正」を、外に出すことです。

  • 見込みと実績のズレを記録する。誰の、どの製品の見込みが、どれくらいブレるのか。数か月分を残すだけで、勘でやっていた補正が、数字として見えてきます。
  • 需要は動く前提で、ルールを決める。どれくらいのバッファを持つか、どのタイミングで計画を見直すか。揺れをその都度の判断に委ねず、仕組みで吸収する。
  • 営業と生産で、同じ情報を見る。見込みのやり取りを口頭や個人メールに頼らず、一つの場に集める。情報が分断されているほど、属人化は進みます。

この「見える化」ができて初めて、標準化やシステム化、AIによる需要予測も意味を持ちます。道具は、その後です。

小さく、一つの判断から

すべてを一度に変える必要はありません。まずは「営業の見込みと、実際の出荷のズレ」を記録することから始めてみてください。それだけで、どの数字が当てになり、どの数字は割り引くべきか——ベテランが勘でやっていたことが、誰でも使える形に変わっていきます。

属人化した生産計画は、その人を責めて直すものではありません。長年積み上げた勘を、組織の財産に変えていく作業です。私自身、営業と生産管理の両方で需要の揺れに向き合ってきました。その経験から、勘を言葉と数字に変えるところを、お手伝いできればと思っています。